
09年01月03日
イノベーションのジレンマ
CEOブログ
帰省もせず、再来週の引越し準備もする気にならず、でも暇なので、ここ一週間ほど、音楽聴きながら推理小説ばかり読んでます。 読んでは眠り、外出するのは食事と本を買うだけ。
先々月買ってしばらく放置していたBOSEのLifestyleV30を聞き、読書のあいまにDVDを見る。 あらためてBOSEの技術力はともかくマーケティングの凄さを思い知らされた。
この上位機種にLifestyle48があるが、V30と同等のアンプとスピーカーにDVDプレーヤーとiTunesのようなCD記憶装置があるだけで、今としては陳腐化したスペック。 ブルーレイもなくて13万円高いのはまったく意味ない。
整理すると、Lifestyle48(DVDと録音機能付で50万円) の二年後に V30(DVDと録音機能なしで37万円)が発売されている。
ここで重要なのは、一年前にこれに気づいて、不要な機器を省略して安価にして投入したマーケティングの力だ。 簡略化するだけなので技術はほとんど不要なだけに、純粋にマーケティングだけの問題になるので、ビジネススクールの教材にふさわしいはず。
そのAVアンプから、 クレイトン・クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」を考えてみる。 これはご存知のように生き残りの難しいビジネス書の中で、今でも輝いている数少ない本だ。 お勧め本です。
読んでないのに知ったかぶりしている人は誤解しているが、ここでの破壊的技術というのは 「優れた技術」という意味でなく、性能を省略して安価にした製品のこと。
かって電卓というのは卓上という名のとおり机の上に置かなければいけないほどの体積があり、惑星の軌道計算とか複利の計算もできた。 しかし普通の使用ではそんなもの必要なく、どんどん簡略化され安価になった。 最近の電卓ではルートもないし、そもそも「ケータイ」よりも軽い。
蛇は生物学者から「省略されたトカゲ」と言われる。手も足もないし、肺も片方しかない。 そのせいか地球上ではトカゲよりも蛇の方が多い。 だけどその特異な外見で支配動物になった人類から嫌われたのは皮肉な話だ。
AVアンプを考えるのに当然サラウンド効果と5.1chがある。 念のため、従来型のステレオは2.0chで前方の左右のスピーカーだ。 ステレオというのは画期的なもので、モノラルでは得られない臨場感とか移動感もある。 その後いくつかの技術的イノベーションがあったがなかなか普及した技術は少ない。
ステレオに加えてなら誰でも普通に考えて後方のスピーカーがある。 人間の想像力は意外と浅いと思わせるのが3chの時代がなかったことだ。 何十年も前、経済的にも技術的にも余裕なき時代に4chを普及させようとした。 でもアナログなレコード盤の時代でもあり無理だった。 この4chディスクリート方式は当然のように失敗した。
それが1970年代だったが、さすがに1980年ぐらいから私も仕事に忙しくなってよく覚えてない。
いつしかサブウーファーが出て、リア・スピーカーが出て、ここまでは私の予想範囲だが、とても贅沢に見えるフロントスピーカーが出て驚かされた。
それまでVHSビデオとかCD音楽の時代で、DVDによる映像コンテンツの普及が大きいのだろう。 当たり前だが映画では主役を撮る、どうしても主役が画面の中央に来る(そうでない映画を撮影してみたいが)、それゆえ音声もスクリーンの中央に配置したい、でフロントスピーカーが必要。。なのだろう。
もし究極のオーディオがあるとしたら、それは8ch以外にない。 三次元空間なら立方体であれ何の空間も、両耳から聞こえるのは8つの角しかないから。(究極の球動体でも数学的に同じだろう)
三次元での究極のオーディオは周波数0から∞まで。 しかし地球の酸素2割窒素8割すぎない世界ではそこまでは意味ない。
ところが、ヤマハのAVアンプの最上位機種には11.2chというのがある。 センタースピーカー×1、サブウーファー×1、フロント×2、リア×2、ここまでが5.1ch。ミドル×2、これで7.1。 さらにフロント上方×2、リア上方×2、そしてサブウーファー×1を追加して11.2ch。
視聴室で聞いてみたがスイッチ切り替えて、少なくとも私の耳では、その瞬間だけようやく分かる程度。しばらくすると手元を見ないと今が5.1か7.1か11.2なのか分からなくなる。 しかも全て有線で設置したリビングを想像するのも恐ろしい。 かつアンプだけで63万円もする。 これは惑星軌道計算できる電卓そのもの。
でも以前使っていたフロントスピーカーだけでの擬似サラウンドも物足りなすぎるし(後ろから聞こえるような気もするし違うような)、別荘にある後方の一つのスピーカーに無線で送る方式も僅かなタイミングのズレが微妙なものがある。
25年ほど昔、当時は4chディスクリート方式が失敗(レコード盤では無理があるし、コンテンツ不足)した頃に、私は楽器屋でギター用エフェクターのディレイ(音を遅らせてエコーとかリバーブ=残響を調整できるもの)を二台とリア用アンプとスピーカー×2をつなげて擬似サラウンドを鳴らしていた。
まだウォークマンが発売前後だけに珍しかったと思う。 家に来た友人が聞きなれない音に絶句していた。ギター用エフェクターの転用だけに中音域しか出ず音質もダメだったが残響効果としては自由度は高かった。スタジアムとか学校のグラウンドのような一回反射音、洞窟とか教会のような長い残響、SFっぽい反響、その中間のホールのような1-2秒で小さいエコー連続とか、狭いクラブのようなタイトな反射空間ぐらいは調整できた。
今なら5.1chシステムに、
1. 天井にスピーカー、キーボード用ディレイとアンプをつければ効果あるだろう。引越したら作ってみたい。
2. さらに言えばPA用ステレオ・ディレイとステレオ・アンプと小さなスピーカー×2を天井に貼り付ければ遥かに魅惑的かも。
3. もっと性能の高い機能にするなら、二組にして前後で残響モードを変えれば微妙な効果は上がるだろうが、、うーん、あまりの持続的イノベーションすぎて費用対効果はないだろう。
もちろん冗談で書いてるのだが、破壊的技術(簡易化)の逆にしている。 こういうオタクな精神こそイノベーションのジレンマの敵なのだろう。
<結論> その点では真面目すぎる日本のオーディオメーカーよりも、さすがにBOSEのマーケティングに分がある。BOSEのlifestleシリーズ5.1chは破壊的技術とまでは行かないが、妥当な落としどころだ。
<蛇足>
先週、食欲がないときに近所の寿司屋に行った。おつな寿司という裏返し稲荷で有名な店。 あっさりしたものが欲しくてチラシ寿司を選ぶ。 並、上、特上、特選とあり、つい見栄を張って特上を頼む。 それが出て来て後悔した。分厚い刺身が盛り上がっている。 食欲ないのに、その上で、重厚なお刺身+丼なんて。 まったく意味のない改善、顧客の要求水準を超える性能と品質。 高い買い物以前の無意味さ。
クリステンセン教授は末日聖徒(モルモン教)で、本来の教条では四人まで妻を持てるのだが、そのためにアメリカ社会の反感を買って教団はユタ州に追われた。 しかし妻が四人もいても管理も大変だろう。 妻は一人で十分だ。 そのように教義が変わって教団は成長した。 今ではアメリカ市民の10%近い信者がいる。
これこそブリガム・ヤング(二代目で中興の祖)大学 出身のクリステンセン教授の破壊的イノベーションの着想の原点かも。。


