BLOG BLOG 「同時性」という視点の大切さ 本「宅配がなくなる日 -同時性解消の社会論-」から

2018年01月30日

0.はじめに

2017年、一つの社会問題が提起されました。それは「物流業界における人材不足問題」です。

Eコマースを用いた商品売買が加速し、物流業の取り扱う貨物が増加する一方で、 配達拠点から購買者に届けるまでの「ラストワンマイル」の運送において人手が不足しています。

松岡真宏・山手剛人著の「宅配がなくなる日 -同時性解消の社会論-」では「同時性」という視点から、この物流業界における人材不足問題を分析しています。

本書は物流業界や百貨店業界における「同時性」について記載した書籍ですが、「同時性」についてはBtoB営業にも関連する視点です。

本コラムでは書籍から学べる「同時性」について記載するほか、「宅配」を「BtoB営業」に置き換えたときのBtoB営業の変化についても記載しています。

宅配がなくなる日









1.日本の物流サービス。人手不足の発生理由とは?

書籍では主に2つあると指摘しています。

 ①配達物の激増

 ②再配達の増加



①配達物の激増

一つ目の原因は配達物が増加していることです。

この増加の背景は、急速なICT技術の発展による顧客の購買行動の変化です。


【ICT技術発展による主な変化】

 カード決済...非対面・即時的購買が可能になった。

 Eコマース市場の発展...多種多様な商品がWebサイトから購買可能になった。

 スマートフォンの急速な普及...情報の取得、Eコマースからの購買において場所と時間を選ばなくなった。

上記のような変化によって消費者は店舗まで足を運ぶ必要がなくなり、

営業時間外でも手元の操作だけで購買が行える環境が一気に構築されました。

その結果として、AmazonのようなEコマースを主体とした企業が台頭し、取り扱う荷物が急増しています。



②再配達の増加

配達する荷物の増加に加え、物流会社自体が旧来から抱える問題点があります。それは再配達の発生です。

再配達は1つの貨物に対する工数を増加させてしまいます。これには日本の核家族化が影響しています。

以前であれば平日昼の配達は家族のうち、誰か一人が受け取ることができていました。

しかし、少人数世帯が増加している現在、昼の時間帯に受取が可能な家族が家にいないという状況が広がっています。



2.課題を「同時性」という視点でまとめて見えること

この二つの原因を「同時性」という視点で見ると関連性が分かりやすくなります。


まず、「同時性」とは何か?

著者は「同時性」について「消費行動、経済活動、企業サービスにおいて、供給・受益者が同じ時間、場所に集うこと」とまとめています。

「同時性がある」状況は、例えば八百屋さんから野菜を買う状況などを指します。

人材不足の一つ目の原因である「配達物の激増」においてはICT技術の発展により、消費者が時間と場所を選ばずに購買を行えるようになりました。

つまり同時性がない状態になっていることを指します。

同時性がなくなったことで、供給・受益者のコミュニケーションを廃した、スピードのある購買行動が行えるようになりました。

その結果、消費者のEコマース利用が増加し、配達物の増加に繋がったのです。


一方で人材不足の二つ目の原因の「再配達の増加」では同時性が成り立ちます。

"荷物を持って配送を行なう担当者"と、"荷物を受け取る受取人"は同じ時間・場所に集う必要があります。

この結果、受取人不在時には届けることができない、再配達が発生します。

近年では同時性のないサービスとして宅配ロッカーやコンビニ受け取りなどを展開しています。

しかし、サービスの絶対数が不足しており、再配達削減の有効打となっていないのが現状です。

つまり、配達拠点から購買者に届ける配達のシーンにおいて、同時性の解消ができておらず、供給・受益者のコミュニケーションが残っている状況であると言えます。


消費者の購買行動が早くなる一方で、配達のシーンではコミュニケーションを撤廃しきれていない。

このスピードの差が、配達物の溢れを招き現在の物流業における人材不足を招いています。

書籍内では、この配達のシーンにおける同時性について、 日本の物流業の特徴を述べながら解消方法を提唱しています。



3.本書から学べること。「同時性」は身近にも存在する。

さて、書籍内では物流業にフォーカスして取り上げてありますが、果たしてこのような環境は物流業に限られる話でしょうか?


日頃の購買・営業活動で考えてみても「同時性」の変化が身近にあります。

例えば、顧客が商品・サービスの詳細情報を知りたい場面などです。

旧来は顧客が営業マンを呼び、商談で情報を教えてもらうという、顧客と営業マンとの間での同時性が生じていました。


現在はウェブサイト等に情報が溢れ、顧客が容易に情報取得をできるようになりました。

営業マンを呼ぶ目的にも変化し、旧来の情報収集目的から価格交渉(値下げ交渉)目的に変わりつつあります。

営業マンと顧客の間にあった同時性の解消が、購買活動・営業活動を変えているのです。



4.私達の仕事の中でも変わりゆく。

近年、導入の進むSFAやマーケティングオートメーションによる顧客情報管理も、

こうした顧客自らの情報収集範囲が広まって、顧客の動向を知るニーズが増したことが背景にあります。


当社の本業からは少し逸れますが、ランドスケイプでも

SFA・マーケティングオートメーションを活かし「同時性」を伴わない顧客育成に注力をしています。

もし、ランドスケイプの顧客育成にご興味をお持ちでしたら、是非下記のセミナーなどをご覧ください。


また「同時性」という視点はめまぐるしいICT環境の変化のある現代で、変化を捉えるための一つの視点にできると考えます。

本コラムでもしご興味を持っていただけましたら、是非「宅配がなくなる日 -同時性解消の社会論-」を手にとってみることをおすすめします。