BLOG BLOG ヒット商品番付(日経)と消費者動向調査(経済産業省)

2010年06月18日

日経MJ(日経流通新聞)から、数日前に発表された"ヒット商品番付2010年上期版"。これ、40年前から続く伝統の番付表だそうで、毎回、楽しみにご覧になっている方も多いと思うのですが、本年度上期版をご覧になってどのような感想をお持ちになったでしょうか?

<表1:2010年上期日経ヒット商品番付>

BLG0618A_2010上ヒット番付.JPG

(日経MJ 2010/6/16付より作成)


ヒット商品番付というのは、大きな売上を上げた商品やサービスを、その時代に与えた意義やインパクト、今後の成長性、新たな価値創造というような観点から、番付表という体裁を借りて、世に問う。というものだそうですが、今回の最新版番付表に付けられた説明の「消費回復の足取りの重さを反映してか・・・」という書き出しに始まり、デジタル製品の革新性や"スカイツリーのような"「天井破り商品」の成長性への期待へのコメントで締めるこの記事には、西横綱の「3D」を大きく評価する人以外は、ハテナな気持ち(インパクトある? 将来につながるの?番付に入れるのは、半年前でも半年後でも良かったのじゃない?とか)になった方も多いのではないでしょうか?

そこで、最新版が"不作"なのかどうか、見てみるために、過去6年ほどさかのぼって、一覧にしてみました。

BLG0618A_2005_2010上ヒット番付.JPGのサムネール画像


さすがに"横綱"、"大関"なだけに、まったく思い出せないようなものはありませんが、多くの人に影響を与えた大ヒットとして思い出すのは2007年Wii&DSと電子マネー*と2005年のiPod&iTunesくらいではないでしょうか。

*2007年、利用範囲の広がったPASMOに首都圏で需要が殺到。カードの生産量不足で、発売が1ヶ月ほど停止されました。この電子マネーの普及で2010年度の1円玉製造枚数は100万枚とピーク時の2700分の1になることが先日報道されています。100万枚というと相当な枚数のような気がしますが、日本全体で、たったの100万円!です。

この大ヒット不在の傾向は、"欲しいものがなくなった"と言われ始めた昭和の後期から続いており、平成になってからの大ヒット商品というものは、IT系商品(PC・ケータイなど)以外、ほとんどないというのが実情のようです。

こうなる理由は、価格競争の厳しさ(安い同等品の出現や同じ機能を実現する他商品での代替サイクルが早い。後者はPC→ネットブック→スマートフォンなどが典型)やマスとなる人口の減少、技術革新の停滞、多くの人に共通する問題や不満の減少などが上げられるようで、こういう問題をふまえて、大ヒットを望むのなら、日本という枠で考えるのをやめ「世界商品」を目指せ。という主張をする人もいますが、日本の中でも成長している分野やまだまだサービスや商品が不足している分野(介護、医療、エコ、リースや所有シェア・・・)も多くあるはずですし、国内の購買力も、心理的にはともかく、それほど大きく減衰しているとは思えないところです。

では、なぜこのような需要の不足が起きているのでしょうか。どうすれば、買ってくれない消費者の需要を喚起することができるのでしょうか。これは、とても大きな問題なので簡単に結論が出せるわけはないのですが、手がかりを探してみたところ、ひとつご紹介したいものが見つかりました。

それは二ヶ月ほど前に経済産業省より発表された「消費者の購買に関するニーズの動向調査~リーマンショック以降の日本の消費者の実像~」という調査報告です。この調査、企業と消費者の双方にたいして行われた大規模な調査で、直近の日本の消費者の消費動向や意識の実態と企業対応との間にどのようなズレがあるのかどうか。が見えるようなデータを集めています。(有効回収数で消費者3000サンプル・企業250サンプル)

以下は、サマリー版(全29ページ)から内容を抜粋。

<消費者>
○デフレと言われるが、実際には、日本の消費者は、「低価格」よりも「信頼できる」、「安心できる」への嗜好性が強い。この点を甘くして低価格化に走っても、企業存続は不可能。
○消費者のこだわりのポイントも、かつてとは大きく変化しており、「信頼」「安心」「安全」は「高機能」などを上回っている。
○ものづくりとは言っても、消費者は「連絡すると、修理・交換・設置に来てくれる」「お客様電話相談窓口の常設」といったサービスを重視。ここに非価格競争の余地がある。
○消費の選択の際に信頼できる情報源とするのは、「口コミサイト」が圧倒的。消費者の評価は、消費動向に強く影響。使ってみて悪かった感想は、企業へ発信する傾向。これらの開発・企画経営部門へのフィードバックが企業の成長を決定する。

<企業>
○約9割の企業が、「消費者対応部門」から消費者からの情報を入手。「販売員セールスマンなどの従業員に直接寄せられる情報」も約8割が入手。
○消費者対応部門や販売員、セールスマンから寄せられる情報は、記録として残されているものの、集計や分析などは十分活用されていない傾向。
○企業内で、ネット上の口コミサイト・ブログ情報は、一過性の情報として扱われるか、一部の情報のみの記録にとどまっている傾向あり。
○企業の各部門では、消費者情報の店舗での活用度が際立って高い。また、製造、生産部門でも、高い。
○他方、顧客の要望に対応するアフターサービス部門や情報発信を行う広報・宣伝部門の情報活用度が高くない。
○更に、研究開発、経営企画・経営戦略部門での、活用度が低いのは特筆すべき問題点。

この調査、一部の報道では、報告内容の一部にある、企業が値下げをすれば消費者は、より価格に敏感になり、際限のない価格競争に陥るという部分がむやみに大きく扱われていたり、ブログなどでは、サブタイトルに"リーマンショック以降"とあるために、リーマンショックで消費者が変わったわけでなく、それ以前からだろう。という突っ込みが入ってしまっていたり、この調査の消費者データはネット調査会社に登録しているパネルサンプルを利用して収集しているので、回答に偏りがあるという指摘があったりで、サマリーレポートのみの閲覧で済ませている人が多いと思いますが、実のところ詳細レポート(全211ページ)には消費者の性・年代・居住地区などの属性別や企業調査の業種別の集計・グラフが収録されていたりと、読み応えのある内容が多く含まれています。

これでヒット番付に載るような、商品が作れる。とは夢想しませんが、参考になるのではないかと思いご紹介しました。

「消費者の購買に関するニーズの動向調査」の結果発表について(経済産業省)

                                                          (記:古沢)