BLOG BLOG 15年間 金利ゼロの住宅ローン

2010年08月27日

経済状況の変化により、いろいろなものが、とても安い値段で提供されるようになり、安さで驚くことも少なくなった今日この頃ですが、6月下旬に東京スター銀行さんが発表した最長で15年間・ゼロ金利の住宅ローンには、驚かれた方も多いのではないでしょうか。 ※このローンは既に締切済みで、今からの申込は不可能です※

ゼロ円モデルというと、携帯やネット回線のように初期費用が本来は高価でも、ゼロ円で提供しておいて、月々の使用料で利益を作るものや、消費者ローンの一部にあるように、初回利用は金利無料にしておいて、2回目からは有料にするもの(初回の無料分は新規客開拓コストと考えているのでしょう)、ネットサイトや一部のメルマガ等のように、外部クライアントからの広告をお客さんに見て貰うことによって、収益を産むもの、あるいは売名というか、話題作りのために何かを無料にしてしまうものなどが代表的ですが、15年返済の住宅ローンで金利ゼロとなると、これらの一般的な無料モデルではとうてい説明できそうになく、お金がお金を産むことを前提としている資本主義の原則に反しているように思えます。

そこで、どういう仕組みなのか、少し調べてみました。

1.住宅ローンの金利0%は事実。(契約書に金利0.000%と記載されます)

但し、

2.融資額の5.25%を融資の前日までに手数料として、支払う必要があります。

3.団体信用生命保険と入院保険に借入者負担で加入する義務があります。
 保険料は、前月末の融資残高100万円あたり420円/月(ガン特約付きなら585円/月)。繰り上げ返済手数料無償サービスなどと組み合わされて、メンテナンスパックという名前がついています。100万円あたり420円(585円)と言われてもよく解りませんが、年利に換算すると0.504%(0.702%)に相当します。(これらの保険料は銀行によっては金利内に組み込まれています)

ということで、金利ゼロ。と言ってもタダではないことは明白になりました。が、最近の住宅ローンの広告を見ていますと、短期の固定であれば1%に迫るものもあり、10年固定でも1.7%を切るものがあるようで、これだけの情報では、借り手にとってどの程度、有利なのかどうかはわかりません。

少し計算をしてみました。(EXCELによる簡易計算なのですべて概数です)

15年返済、借入2000万円の場合、手数料105万円、ガン保険のないメンテナンスパック支払総額76万円で 元金以外の負担額は、計181万円になります。

この負担額181万円をそのまま金利として計算してみると1.18%くらい。

このほかに、契約書印紙代と借り換え時なら抵当権関係の手続きで、この場合は20万円くらいでしょうか。

そうすると初期費は125万円。最初の125万円の支払いと15年かけての支払いは同じでないので、この分を金利に換算してみたいのですが、ここに踏み込むと素人には難しくなります。無理にやってみると125万円を15年間年利3%で利殖できたとすると70万円ほど増えそうなので、これを全額ローン利子支払いとみなすという荒技でやってみます。このような計算での総負担額は手数料105万+抵当権設定等20万+メンテパック76万+初期費に対して期待できる利子70万で計271万円。15年で利子が271万円かかることになる利率は1.74%ほどのようです。(ガン保険を入れるならこの利率に0.18%を加えて下さい)

えーと、めんどい計算になってきました。ここまでの話で私が言いたいことは、結局このローンは、15年返済固定として見るとおそらく最も安い支払額になっていますが、他行で提示しているさまざまなローン条件と比較すると「計算の仕方によっては(東京スターさんに意地悪な計算をすれば)」誰にでも圧倒的に有利なものではない。と見ることもできそうだ。ということです。

15年のローンを必ず15年で返す人なら、おそらく最も有利なのですが、当初の数年間で、ある程度のお金を余分に返済できる環境の人や返済期間中に退職金などの一時金が入る予定がある人、住み替え等で短中期の間に売却する可能性がある人などであれば、かならずしも、この"ゼロ金利ローン"である必要はなさそうだということですね。このローンで借りるならば、できるだけ長い期間で支払うようにして、その間の余裕資金は、別途利殖に回すという姿勢が必要なようです。(金利はゼロなので、早期に返済してもメンテナンスパック料以外の支払いは減りません)

どうやら万人に有利とは言えない、このゼロ金利ローンですが、申込者が殺到し、2週間ほどで締切りになりました。このローンは、相談会申込みから、融資の実行(9月限定)までの期間が短かったり、最長でも15年と住宅ローンとしては短期間のため住宅価格の総額に対して、ある程度支払いの進んでいる人でないと申込めない。というような面があって、他行からの借換客中心になったようですが、5.25%というまとまった手数料が前金で必要なこともあって、結果的に与信力の強いお客様を短期に集めることに成功したようです。


昨年、クリスアンダーソンが書いた『フリー<無料>からお金を生み出す新戦略』という本が話題になりました。この本の中で、「市場に参入する破壊的な方法は、既存ビジネスが収益源としている商品をタダにすること。すると、その市場の顧客が押しかけてくる」というようなことを彼は言っています。

個人客との取引で住宅ローンというと、銀行の収益上、重要な位置を占めるものだと思うのですが、ここで、大きく<金利ゼロ>を謳ったこの商品。みなさんは、どう思われますか? 

                                                                 記:古沢


追記:本文では東京スター銀行さんにちょっと意地悪な計算をしてしまいました。とがった告知の商品ですが、仕掛けとして見事なものだと思ったのでこの場で取り上げました。他意はありませんのでご了承下さい。(私の知人はこのローンで融資を受けることになり、とても満足しているようです。これからはローンの早期返済はやめて株を買うのだとか)

BLG0826A_0292_512.jpgのサムネール画像

(左)チラシ・「これ以上、下げられません。日本初 全期間金利ゼロ%の住宅ローン」

(右)溜池交差点のコマツビル(小松製作所本社・屋上庭園で有名です)のとなり、東京スター銀行本社移転予定地にある看板。「ただいま建設中(お金をふやすチャンスを)」と書いてあります。