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2010年11月05日

今日はテディベアの話を書きます。

最初にお断りしておきますと、私はテディベアに詳しい訳ではありません。先日、たまたま公共放送局のTVチャネルを見ていましたら、テディベアの番組がありまして、それが面白かった(のと少し薄い内容だったのでいろいろと疑問が出てしまった)ので、ちょっと調べてみました。というレベルのものです。テディベアのように詳しい人がたくさんいる領域の話を、こういう場に書くのは危険ではあるのですが、それを言っていると、私なんぞ、あらゆるものが一切書けなくなるので、そのあたりは知らん顔して話をすすめます。

■さて、テディベアとは?

テディベアというと、素朴なクマのぬいぐるみ。テディというのは米大統領のセオドア・ルーズベルトの愛称。ということ位までは知っている人が多そうですが、ではなぜ、クマのぬいぐるみに彼の名前がついているかとなると、私は知りませんでした。(見た目が似ているからじゃね、と・・・)

これは、1902年の11月(108年前)に、4日間の日程で、クマ狩りに出かけたルーズベルト大統領が、優秀な側近(とクマ狩りのプロと随行記者)を従え、クマを追ったもののなぜか彼の前にはクマが現れず、最終日になってやっと1頭のクマを、彼のスタッフが追い詰めに追い詰め、弱ったクマ(子グマではなく"老いたクマ"という記述もあります。縄をかけていたようです)を、ルーズベルトに"撃つように"言ったのですが、彼は、このようなクマを撃つことがスポーツマンシップにもとる。として拒否したことが、大きく世間に伝えられたことが発祥です。

この話、100年以上前の出来事ですし、大統領を勇気と慈愛にみちたヒーローに仕立てる習慣のある米国のことですから、内容にいくつかのバリエーションがあり、日程がちがっていたり、かわいい子グマを大統領自身が見つけ、撃とうとしたが撃てなかった。「あのクマを撃っていたら、自分は自分の子供の目を見られなくなっていたろう」という話が残っていたり、当時これを取り上げたマンガ類(政治風刺系のもの)も、書かれるたびに、クマが小さく、可愛らしくなっているなど意図的な操作が行われています。彼自身、娘の結婚式に飾りとして使ったり、再選時のキャンペーンではテディベアをアイコンにしたりと、うまく利用したようです。(かれは日露戦争の和平交渉の功績でのノーベル平和賞受賞者でもあります)

■なぜ100年以上にわたって愛されているのか?

登場から100年以上、世界中で愛されるテディベアですが、この人気の理由は何より、テディベアが持つ、人間の赤ん坊にも似た生物の普遍的なかわいさと、テディという名の由来となったストーリーの伝播力の強さということだと思うのですが、前述のNHKの番組によると、これ以外に、3つの理由があげられています。

(1)姿勢:人間のように座っていること。
クマは通常四つ足で行動するのですが、テディベアは人間のように、ちょこんと座る形が基本になっています。実際のクマも、人間のように立ち上がったり、座ったりすることがあるそうで不自然ではないようですが、この座り姿勢が、人間に親近感を持たせ癒す工夫になっており、この製品以降、他の動物のぬいぐるみも座り姿勢のものが多くなっているのだとか。また、一般的なテディベアの関節にはジョイントが組み込まれていて、クマの取るさまざまな姿勢を再現して遊べます。あと、脚に比べ手が長く、"抱っこしたくなる"という工夫もあります。

(2)ふわふわの毛並み
伝統的な作りのテディベアはモヘア(アンゴラヤギの毛を加工)が表皮として使われており、ふわふわした手触りの良さが重視されています。西欧では子供を早くから独り寝させるそうですが、このときにテディベアを与える習慣があり、ここから、ぬいぐるみとその子の長い交流が始まるのです。

(3)無表情な顔
多くのテディは、正面をまっすぐ見つめ無表情になっています。このことが対面する人間のさまざまな感情をひろく優しく受け止めるものとなり、長く愛されるのだそうです。

■本家のテディベアはどこの製品なのでしょうか?

前述のTV番組で不思議に思ったのは、テディベアを最初に作ったのはドイツの会社(シュタイフ社)だと紹介されたことです。この会社は130年ほどの歴史のある会社で、テディベア以前から、クマを含む動物のぬいぐるみを作っており、ルーズベルト大統領の逸話以降、"テディベア"という名前を付けたクマを量販した。という話のようです。(3000体のクマは1903年3月以降に米へ輸出。ドイツはこのころ玩具の先進国)

しかし、これには異論があり、本家のテディベアは、やはりアメリカで、ある個人(のちアイデアル社)がニュース/マンガを見て作ったぬいぐるみを、自店で飾った後、大統領に送り、名前を使うことの了解をもとめ許諾の手紙を受け取った。とされています。(ただし、手紙は紛失してしまったとか・・・) この話の流れで言うとドイツの会社よりアメリカの会社の方が早く製造しているような気がします。試作品はアメリカ、量販品はドイツなのでしょうか。

このあたり、たいていの書籍やWEBでは、どちらかを先に書いた後、同時に**では、という書き方をしています。

また、ロンドンのハロッズで扱っているテディベアも正統なもの(知人が買う気で行きました。結局買わなかったようですが)として認められているようですが、英国では過去、テディという愛称の王族が居たそうで、英国民の中にはテディは自国の人。と思っている人もいるそうです。ま、信じて楽しければそれでいいのではと思います。

■テディの広がり

ネットでテディベアと検索すると、一般商品としてのテディベアの他、<テディベアの由来><テディベアの童話><テディベアの作り方><テディベアの歌><コレクターズアイテムとしてのテディベア><アートとしてのテディベア><テディベアミュージアム>など、さまざまな内容がヒットします。

さて、テディベアは、ディズニーやMLB、オリンピック商品のようにライセンスがあって模倣品が排除されているということがありません。どこの社も商標権などの権利を取ったことがなく、自由に製造し流通させることができます。よっていろいろな国のいろいろな玩具メーカーによってテディベアは製造・販売されていて、その数は、いまも30を越えるようです。

当然、テディベアを自作して楽しむのはもちろん、そのテディベアを誰が、どこで販売しても、何をしてもかまわない訳です。よって、ホンモノも偽物もなく、その人がテディというなら、すべてがテディです。シロウトが作るものがあったり、プロが伝統的な製法で丁寧につくるものがあったり、あるいは現代アート系の人が、ポップなものを作って展示販売したりしています。8頭身くらいあって、ウェディングドレスのような服を着ているテディさんも見つけてしまいました。

こういうものをつくる人たちは、"テディベア作家"または"テディベアアーティスト"と紹介されています。こういう職業、初めて知りました。

コレクターズアイテムというと、一応1940年以前のものがクラシックなものとして、また、何かの記念として数量限定で作られたものや、チャリティオークション目的で特別に製造されたものなどが珍重されるようです。最高額は1994年に2000万円ほどで落札された1905年の"テディガール" で、これは伊豆のテディベアミュージアムに展示してあるそうです。(クリスティーズでは定期的にテディベアのオークションを開催しています)

歌というと、エルビス・プレスリーのTeddy Bearという、"僕はキミのテディベアになりたい"と軽妙に歌う大ヒット曲があります。内容を確認できていませんが、浜崎あゆみのアルバムの中にも同名の曲が入っているようです。くまのプーさんもテディだそうなので、このあたりの曲もあるのでしょうか。

日本の書籍でいうと、海外版の図鑑の翻訳ものも多いのですが、それ以外に童話とか、型紙付きの自作法を教える本などが多く出版されています。作り方をざっと見ましたが、こういうシンプルなものを可愛く作るのは、相当、むずかしいことのようです。自分で作ってしまえば、どんなに不格好でも可愛いのでしょうけど。

ミュージアムですが、2002年の書籍によると国内に8カ所あります(箱根、飛騨高山、佐世保、伊豆、神戸、那須、蓼科、函館)。イギリスは6カ所、アメリカ4カ所、ドイツ2カ所で、どうやら世界最多の模様。規模とコレクションの質はわかりませんが、我が国にはマニアな人が多いのでしょうか。

■そろそろおしまい。

登場から100年以上、2回の大戦も乗り越えて世界中で愛されるテディベア。この人気のヒミツは、(1)普遍的なかわいらしさ (2)由来のストーリーの強さ (3)製品の周到な工夫 (4)法的な縛りのない自由さ というようなところでしょうか。(1)~(3)は、広く長く愛用される製品が具備すべき特徴を見事に捉えているようです。(4)については、権利を取得した人も放棄した人もいないわけですが、最近のオープンソースと呼ばれるソフトウェアなどと同様に、結果的に世界の共有資産に成長させるプラットフォームになりました。

さて、ここまで長い文だと、最後まで読んでいただける人も少ないかと思うのですが、このぬいぐるみに興味をもたれましたか? 

都内の展示会ですが、いま開催中のものと、来週から開催されるものがありますので、下記します。

(1) わたしのシュタイフ展(新宿四谷・おもちや美術館)11/7まで。
http://www.goodtoy.org/ttm/event_exhibition.html#shutaifu

(2) テディベアコレクション2010(恵比寿・恵比寿三越店)11/12-11/18
http://www.mitsukoshi.co.jp/store/2410/ee.html#teddybear
http://www.teddybear.co.jp/event/event/2010_1101.html

前者は、11/7までなので、この文を読まれるほとんどの方は、事後ということになってしまいますが、シュタイフ社製品の個人所有者が、そのぬいぐるみと自分との関わりなどを記した小文とともに50体ほどを展示しているのだそうで、じっくり見ると面白そうです。

恵比寿三越の方は、日本の多くの"テディベア・アーティスト"の作品とともに、シュタイフ社の製品やアンティークものも展示するそうなので、こちらの方が、ちょっと見に行くには向いてそうです。入場無料のようですし、欲しくなったら買うこともできるようです。(引き渡しは、当然、展示会終了後ですね)
(記:古沢)


Teddy bear 27

写真)ドイツ製・1954年頃。

参考)
NHK制作 "美の壺" File188:テディベア
Wikipedia.org http://en.wikipedia.org/wiki/Teddy_bear
セオドア・ルーズベルト・アソシエーション http://www.theodoreroosevelt.org/life/tr_teddy.htm
ポーリーン・コックリル『テディベア図鑑』(2002,ネコパブリッシング)
スー・ピアソン『テディ・ベア・ブック』(1996,中央公論社)
真野朋子『テディベア入門』(1993,晶文社)