BLOG BLOG 国立国会図書館

2011年01月21日

年末から年初にかけて、立て続けに3回ほど"国立国会図書館"に行ってきました。

国立国会図書館 というと、国内の<すべて>の出版物を集めているスゴイところ。ということくらいは知っていても、名前が名前だし、警備厳重な議事堂エリア(国道246号を挟んで向かいは最高裁判所。自民党など政党本部も近隣)にあって、使ったことがない人だと特殊な施設で敷居の高いところ。というイメージがあると思うのですが、目的を絞れば使いやすいし便利だし楽しい。というのが私の印象です。ここは土日が休みだとずっと思い違いしていて、いままで使っていなかったのですが、2004年秋から土曜も開館していました。今、これを知って、ちょっと損した気分です。

ということで、今日のところは(も)、深いところは書けないのですが、国会図書館の簡単な利用法と一般の人が、この図書館を利用する上で知っておいた方がいいのかなと思う基礎的な部分をまとめてみました。

1.まず国立国会図書館を使ってみる

どうやれば使えるの?というところからはじめましょう。ネット経由で利用する方法もあるのですが、ここは、個人が、東京本館に行く。という場合で記します。一日利用するだけであれば、本人確認書類の提示を求められることもなく、簡単です。

《利用者の条件と開館時間》
利用者は18才以上となっています。
平日は9:30-19:00。土曜は9:30-17:00。日祝と年末年始は休館。

《入館の手順》
 初回の場合は、敷地奥の新館から入場するようになっています。まずは、手荷物を入口近くのコインロッカー(お金は戻ります)に入れ、持ち込む筆記具等は用意されている透明の袋に入れます。PCや携帯も持ち込み可能。(利用ルールは当然あります)。

《館内利用カードの取得と利用者登録》
複数回利用する前提で利用者登録をする人も、一日利用のみの人も、まず1日利用できる館内利用カードを、入口近くにある発券機に住所、氏名、生年月日等を入力して、取得します。タッチパネル風の画面で案内されるので、おもわず指で画面を触るのですが、《タッチペン方式》の入力です。住所は郵便番号から表示されます。

必要事項を入力すると館内で利用するICチップ入りの館内利用カードが発行されますので、これを、入口にある駅の改札機のような機械にカードをスイカ(パスモ)のように、タッチしてください。これで入館できます。(出るときはこの"改札口の機械"にカードを差し込んで返納します。資料を返却していなかったり、即日で請求した複写物を受け取っていないとアラームが出るようです)

継続利用のために利用者登録をするには、新館の奥にあるカウンターで、本人確認証(免許やパスポートなど)を提示して利用者登録カードを取得します(利用者のIDと名前が印字された、立派なカードです)。これがあると、次回から館内利用カードを取得するときに、発行機に利用者登録カードのバーコードを読ませ暗証番号を《タッチペン》で入れるだけで済みますので楽になります(入館毎に館内利用カードの取得が必要です)。利用者登録しているとネットで複写申込みができたりもします。

《資料の検索、閲覧と返納》
閉架式の図書館なので、見たい資料を端末で検索して閲覧を請求するという流れが標準です。資料検索用端末(端末に種類があります)を利用するには、館内利用カードを端末横のカードリーダーに置くとカードのIDで自動ログオンされますので、その後、資料を検索。必要ならそのまま資料を請求します。
請求は、図書、雑誌それぞれに3件まで。資料が出てくるまで通常で20分ほどかかります。資料が調うと、館内にある大型のディスプレイに館内利用カードのIDが表示されます。(資料検索用端末からも自分の請求した資料の状況が確認できます)

昔は、入館用の書類を書き、図書目録カードを1枚、1枚めくって、必要な資料を見つけ、それから資料請求用紙を記入することになっていたようですが、今は、ここまでならペーパーレスですし、通常の検索なら、いまどき誰でも簡単にこなせます。やってみると求めていた資料が、簡単に出てくること。また、予想外に多くの関連資料が出てくることなど感動しました。(昔の仕組みなら私の能力と根気ではこの図書館の利用はとうてい不可能です。なお資料検索は館外からも可能です)

《資料の複写》
複写は、複写申込み端末から複写用申請書を印刷し、複写するページを記入、しおりの紙を必要な場所に挟んで、複写窓口に提出します。複写は専門の係が手作業で行います。資料が傷まないように、また、著作権法を遵守するためのようです。費用は、ちょっと高めでA4モノクロ1枚でも25.2円。即日複写の場合(計100ページ以下)であれば、やはり20分ほどでできあがります。

《資料の返納》
資料の返納は、受取カウンターの並びに返納窓口があるので、館内利用カードと借りていた資料を出すと、確認の処理をしてくれます。

《専門室》
国会図書館は閉架式の図書館と書きましたが、どう調べたら良いかをまず調べたい場合などに使用する<専門室>というものが各領域別に館内9カ所にあります。<専門室>への入室や資料閲覧が、公用または学術研究用のみに制限され許可が必要な場合も一部もありますが(占領時資料や過去の重要人物が残した私文書などを対象にした資料室)、ほとんどのところは、自由に入室でき開架式になっていて、逐次刊行物と言われる最新の雑誌類や、年鑑、定期調査の報告書、名鑑などが大量に並んでいます。また、その領域のオンラインデータベースやCD-ROM類を利用できる端末が設置されています。規模で言えば、都内の中小規模の図書館よりも大きいくらいのものもあり圧倒されます。

とまあ、くどくど利用法を書いてしまいましたが、これらすべて国会図書館のWEBに詳細に掲示されています。が、いちいち読むのが面倒という人は、まず現地に行って下さい。この図書館では、各ポイントに利用者をサポートする係の人がいてヘルプしてくれるようになっています。いたるところにヒトが多いのは、国立や都立の施設にいくと、いつも感じるところですが、ここは必要なところに能力と意欲のある人を置いているように思います。(人気のある職場のようで雇用形態がどうであろうとここで職を得るのは狭き門のようです)

2.国立国会図書館とは?

国立国会図書館は、思いの外、使いやすい図書館ですが、やはり特殊な図書館です。また、一般国民に対して"いつ、どんな時にでも使って欲しい"。と願う性質の図書館でもありません。

国立国会図書館は、昭和23年(1948年)に公布施行された国立国会図書館法 という法律によって存在している図書館ですが、そのサービス提供には優先順位があり、第一は国会議員の職務遂行(立法)に関するものであり、次いで、司法や行政、また国民に対するサービスを同時に行うと定められています。

国会へのサポートという点では、現/元/前を含む国会議員(および国会関係者/議員秘書など)へは、資料の借出や期間が無制限に行われ、専用の閲覧室や研究室が提供されるなどのほか、調査局という組織で、国会議員からの要求に応じ、立法に関わる調査やレポートの作成を行います。

平成21年度の国立国会図書館年報では、国会議員・国会関係者への立法調査の提供件数は41,414件になっています。国会議員の東京本館利用者数は、閲覧室654名(うち現職は214名)、研究室1839名(同1492名)。議事堂内にある国会分館の国会議員利用者は1,219名(内訳不明)と、これらはすべて延べ数のはずなのに、ちょっと少な目の数字です。わざわざ来館せずとも、スタッフが処理してくれているのでしょうか。現職であればその方が正しいのかもしれません。(ちなみに個人の一般利用者は東京本館来館者で473,927名・利用登録者は総数で99,530名です)

行政や司法へのサービスという点では、国立国会図書館の支部が、各省庁などに設置され、サービスを行っています。(こちらは国民に公開しているところは少ないようです)。

3.国民にとっての国立国会図書館

この図書館のサービスは、前述のように、立法機関へのそれが、優先されています。

では、主権者である国民へのサービスは副次的なものなのか。というと理念的にはそうではありません。

この図書館は、前述の国立国会図書館法という法律によって設立されていますが、この法律の前文には、以下のように"真理がわれらを自由にする"という図書関係者には有名な一文があります。

「国立国会図書館は、真理がわれらを自由にするという確信に立つて、憲法の誓約する日本の民主化と世界平和とに寄与することを使命として、ここに設立される」

これは先の大戦が、国民の無知による悲惨な出来事であるという認識のもと、全ての国民にすべての事実・情報・知識を分け隔てなく提供する。それらを共有することが、戦後の日本が願う民主主義の実現と平和国家建設の礎石となる。という意思の表現であるようです。立法府が使う情報が行政・司法からも、当然、主権者である国民からもあまねく利用でき、同じ情報基盤の上で、議論を行う。このことが民主主義の基礎となる。という思想です。

前文がある法律は、他に日本国憲法・教育基本法くらいしかなく、このような表現自体も、法として異例ですし、三権分立の枠を越え、立法、行政、司法にサービスを提供し、また、設立から数十年の間、国会図書館の館長は、国務大臣の処遇(報酬)とすることが規定されていたことなど、調べていくと、国会図書館は異例なことの多い機関なのですが、それにはこういう背景があるのです。(初代の副館長は、戦時中、戦争に反対したため治安維持法違反で投獄されていた人物です)

この図書館の理念は、日本の各自治体に設置されている議会図書館や、公共図書館の理念としても引き継がれ、日本の図書館行政へ大きな影響を与えてきたとされています。


4.日本唯一の法定納本図書館

ここは、日本で唯一、法により出版者の義務として納本が求められている図書館です。これら納本と、必要により行われる購入や国外組織との交換などにより平成21年度末現在で、総計3661万件の資料を収集し、これらを可能な限り長く保存し国民の利用に供す使命を持っています。

出版者は、民間、官公庁ともに、国内で発行されるすべての図書・雑誌・新聞・音楽CD・ビデオ、DVD・CD-ROM、楽譜・地図など、機密扱いのものを除き、すべてこの図書館に納めることが、法によって求められています。この義務に従わない場合、小売額の5倍の過料が科されるという規定まであります。

これだけ読むと、日本のすべての出版物が揃っているように思うのですが、民間の納入率でいえば、取次経由で流通している出版物で88%、自費出版で67%、雑誌・新聞85%、音楽・映像39%という状態です。これでもちょっとどうかな。と思う数字なのですが、官庁出版物の方が、民間より納入率が低いようで、国の機関の市販資料の場合で90%、市販していない資料で46%、地方自治体42%という数値が、国会図書館発行の"よくわかる納本制度"というリーフレットにあります。大学の場合でも、私立と公立では、公立の方が納入率が低い。という結果になっています。

日本の場合、納本された出版物の小売価格の50%程度が、請求により代価として支払われるルール(他国では無償のようです)になっていますし、国が責任を持って保管してくれる。というのであれば、出版者にとって悪い話ではないはずですが、この制度は60年を経ても世に浸透していないのでしょうか。

また、なにより、お国の機関の方々は何を考えて、どういう理屈で、納本していないのか。こっちは、ちょっと想像できないところです。

*『国立国会図書館解体新書』という1988年発行の冊子によると官庁は他省庁への情報もれを好まず、納入率は6割じゃないか。という記述がありました。今は、昔よりは良くなっているのでしょうか。率だけ上げて、知らせたくない情報はより出さないようになっても意味はないのですが。ちなみにこの冊子は、都内で国会図書館だけが所蔵していました。

5.一般の利用について

さて、一般の国民がこの図書館を、実際に利用する上では、最初に書いた年齢制限以外は、特に制約はありません。雑誌類の閲覧者の多いエリアに行くと、ふつうに新しめの娯楽雑誌を請求して楽しんでいるように見えてしまうような気がする利用者も探せば見つかります(マンガ類なども当然揃います。請求内容について館員が閲覧者にとやかくは言えません・・)。

が、資料の保存とサービス可能な規模からして、この施設は、一般の図書館の資料では、解決しない問題についてのみ利用して欲しい。国民の最後の拠り所("ラストリゾート")としての利用を求めたい。ということが言われています。この図書館は、WEBで見るときめ細かい説明がいろいろあって、めんどくさそうなところという印象ですが、実際に訪問すると、利用者の良識に任せる。というスタンスでの運営になっているようで、なおさら、自律が求められるところかと思います。

私自身で言うと、この図書館の利用法が解ってからは、都内の公共図書館の蔵書を横断検索できるサイトを見た後、国会図書館のサイトで検索して比較していますが、古いものや専門的なものになると、やはりここは強いです。ちょっと前の雑誌や新聞類などでも一般図書館では全く敵いません。最近の街の図書館は資料を捨てすぎだと思います。これから必要なときは遠慮無く使うつもりでいますが、一般図書館のいまのていたらくだと、"国会に乱入"する機会が増えてしまいそうです。


*おしまい(その他の施設・蛇足です)*


国立国会図書館は、長時間滞在型の図書館のため、資料閲覧以外にも利用者の便宜をはかる施設や設備があります。いろいろな場所に分散しているので、全部見ようとすると歩き回る必要がありますが、ちょっと独自で面白いものがあります。

コインロッカー・・・入館者は、入館前にコインロッカーに荷物を預けているので筆記具やメモ類等以外持っていないはずですが、館内に入ると、また、いくつものロッカーがあります。最初、何に使うのか不思議に思ったのですが、閲覧する資料類の保護のため、食事やトイレ、喫煙などに行く場合は、このロッカーに資料類を預けることがルールになっています。

売店・・・品揃えがコンビニに似た売店があります。入館時に便利な厚めの透明ビニール製の手提げなども売っています。

喫茶店・・・雰囲気もメニューも昭和~平成初期を満喫できそうな喫茶店です。一般の喫茶店より価格は安めですが、最近の低価格路線のお店には勝てません。(私が見たのは、新館に2店あるうちの3階のお店。1階のお店は雰囲気違うようです。行った日は休みでした)

食堂・・・メニューに、"国会丼"と"新国会丼"がありました。利用しませんでしたが、国会系の食堂はお米がおいしいらしいので、次はトライしようと思います。(まずいお米を使うと、産地を選挙区にもつ議員からウチのを使え!と強烈なクレームが来るという話を聞いたことがあります)自前のお弁当を食べるスペースも用意されています。

 国会丼----牛肉とカレーが半分ずつ(与野党伯仲)
 新国会丼---白い器に親子丼。その上にカツを載せてグリーンピースを少量。
(白は公正で、親子/世襲にカツ。グリーンピースは平和)

理髪店・・・地下に床屋さんがあります。調髪で2600円。丁寧にやってくれるタイプのお店のようなので安いですね。時間があるときはいいのではないでしょうか。

中庭・・・寒かったので外に出ませんでしたが、中庭があります。穏やかな日であれば、休憩に気持ち良さそうです。

喫煙室・・・いまどき珍しく立派な喫煙室がありました。利用はしませんが、広めで快適そうな椅子があって良さげでした。

                            (記:古沢)


<参考>
国立国会図書館「国立国会図書館年報 平成21年度」
http://www.ndl.go.jp/jp/publication/annual/h21/nen21.pdf
国立国会図書館「よくわかる納本制度」(国立国会図書館,2008)
国立国会図書館監修『国立国会図書館入門』(三一書房,1998)
国立国会図書館編著『国立国会図書館のしごと』(日外アソシエーツ,1997)
国立国会図書館を考える会『国立国会図書館解体新書』(国立国会図書館を考える会,1988)

国立国会図書館 http://www.ndl.go.jp/
東京都公立図書館横断検索 http://metro.tokyo.opac.jp/

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(写真上)図書館前の石垣と議事堂。この周辺は桜が多く春は華やぎます。
(写真中)奥にある建物が新館。左側が旧館です。(新館は地上4階。地下8階で地下部分が書庫です)
(写真下)自転車か二輪車でいくなら充分な駐輪スペースがあります。この近辺はお巡りさんだらけなので、ちょっとだけなら、歩道に・・・は不可能です。