BLOG BLOG イグ・ノーベル賞

2011年02月04日

今日は、イグ・ノーベル賞について書いてみます。

1. イグ・ノーベル賞とは

ノーベル賞のパロディとして、1991年からアメリカで創設され毎年実施されているこの賞は、以下のような条件で選考され、経済学、物理学、医学、化学、平和など、概ね10部門程度で表彰が行われています。

(1)「世間を笑わせ、考えさせた」研究 
(2)「誰もマネできない。マネすべきでない」業績

パロディといいながら、一部は、まっとうな(≒ややふつうの)研究や人類の平和(や娯楽)に貢献した発明にも賞が与えられているのですが、研究自体の正当性や世界の平和や繁栄への貢献の有無については、必ずしも問われておらず、科学性(再現性)がないと評価された主張や、電子メール詐欺やスパムメール。企業の失態や不正などについても、上述の条件に合致すれば、賞が与えられています。

2.受賞研究例

まずは面白そうなものを少しならべてみましょう。(●印は日本人の受賞/共同研究含む)

●ピカソとモネの絵画を見分けられるようにハトを訓練し成功(1995心理学)
●数百万人の仕事時間を、仮想的なペットの飼育に転換<たまごっち>(1997経済学)
○水は記憶を持つだけでなく、その情報を電話線やインターネットで送信することもできるというホメオパシー的発見に対して(1998化学賞)
●コンピュータによって自動的にイヌ語をヒト語に翻訳する機械を発明し、種の間の平和と調和を促進した<バウリンガル> (2002平和賞)
○床に落ちた食べ物を食べても安全かどうかについての「5秒ルール」の科学的妥当性の研究(2004公衆衛生学)
●人々がお互いに許容しあう、全く新しい方法を提供<カラオケ>(2004 平和賞)
○なぜ人々は黒板に爪を立ててこする音を嫌うかを研究する実験(2006音響学)
○十代の若者には聞こえるが大人には聞こえない不快な高周波ノイズを発する電子式ティーンエイジャー撃退機を発明 (2006平和賞)
○集合写真を撮る際に誰も目をつぶっていない写真を撮るためには、何人いる場合何枚撮れば確実か計算した(2006数学)
●牛の糞からバニラの香りと味のする物質を抽出(2007化学賞)
○イヌに寄生するノミは、ネコに寄生するノミより高く飛ぶことを発見(2008生物学)
●単細胞生物の真正粘菌にパズルを解く能力があったことを発見(2008認知科学)
○名前をつけられた牛は、名無しの牛よりもたくさんの牛乳を出すことを示した(2009獣医学)
●鉄道網など都市のインフラ整備を行う際、真正粘菌を用いて、輸送効率に優れた最適なネットワークを設計する研究(2010交通計画学)

過去20回で約200件の賞が与えられ、うち15件に日本人が含まれています。手元のデータでは国別の集計が出来ませんが、なぜか日本はイグ・ノーベル賞大国。

受賞内容をみると、たまごっちやバウリンガル、カラオケなどは、わかりやすいのですが、その他は、意義や成果が、よく解らないものがほとんどです。(上の例は解りやすいものから拾いました) で、なんじゃこれは?と興味をお持ちになった方は、テキトーに検索するか、末尾に参照先を載せていますのでご覧ください。なお、"水が記憶する"という研究は研究そのものより、成果をしつこく主張し一流科学雑誌に掲載させたことによって与えられたようです。(この受賞者は、同類の研究で1991年にも化学賞を受賞)

以下は、風刺・警告・批判系のもの

○ヒロシマの50周年を記念し太平洋上で核実験を行った(1996平和賞・シラク大統領)
○度を越して原子爆弾を平和的に爆発させたことに対して<インド・パキスタン>(1998平和賞)
○あらゆる金融機関には限界があることを実証するために、金融派生商品の入り組んだ手法を駆使したこと<ベアリングス銀行破綻>(1995経済学)
○ビジネスの世界に数学の虚数概念を応用した<エンロン・ワールドコム等>(2002経済学)
○アメリカ議会で証言するほど、ニコチンに依存性が無いことの不動の証拠を示した<タバコ会社の偽証>(1996医学賞)
○ジャンク電子メール発送業者にたいして(1997情報伝達学)
○資金投資の全く新たな手法 - 世界経済(またはその一部)の得る金融取引上の利益を最大化し、リスクを最小化する を創造し宣伝したこと<リーマン、ゴールドマンサックス等>(2010経済学)
○電子メール詐欺「ナイジェリアの手紙」(2005文学賞)

この賞の創設者は、経済学賞の受賞者とは、連絡がとれないことが多い。なぜならば5年から15年の刑期で服役中だからだ。と自身の書籍に記しています。

3.選考方法と授賞式

<ノミネート>自薦・他薦 Eメールでの応募も可(下の方に応募先書いておきますね)
実在の人物で、ふさわしい業績がある人であれば、その他の条件はありません。(食べ物5秒ルールの受賞者は高校生)
エントリーは、カンタン。が、受賞に値する業績は、目を見張るほど馬鹿げているか、刺激的である必要があるようです。でないと普通の賞になりますからね。
 
<選考委員> 創設者のM.エイブラハムズと彼が発行する科学雑誌の関係者、ノーベル賞受賞者を含む多くの科学者・専門家、ジャーナリストに加え、最終選考には公平を期するために、たまたま通りかかった人が必ず参加することになっています。

<授賞式>ハーバード大学講堂 賞の授与はノーベル賞受賞者より。

<賞金・賞品>賞金なし。授賞式への出席旅費も自費。賞品は安い材料で適当に作られるメダルなど

4.イグ・ノーベル賞の意義

この賞、受賞を知らされ激怒する人もいるようですが、ほとんどの人は、名誉として受けとめ、ノーベル賞受賞者のなかにも、イグ・ノーベル賞 を取りたい、と公言している人がいるそうです。また、実際の運営にもノーベル賞受賞者や一流の科学者が関わっており、毎年エントリーされる研究は5000件を 越えるとされていますから、この運営にはたいへんな労力が費やされています。

日本人の受賞研究を見ると、たまごっちやバウリンガル、カラオケなど、世界的に大きな反響を呼んだものが含まれているのですが、このようなものは、例外中の例外に属するもので、ほとんどの研究は、何の役に立つのか さっぱり解らないようなものばかりで、ここまでの記述からは除外しましたが、下ネタに属するような研究も多く含まれています。

では、このような賞に、何故、一部とはいえ一流の科学者達が深く関与するのでしょうか? この制度の意義はどこにあるのでしょうか?

創設者のM.エイブラハムズの書籍をみても、イグ・ノーベル賞委員会は応募の書類を紛失することが多い。などの但し書きはあっても、この賞の意義を高らかに謳うような無粋なことはしていません。

選考基準から考えると、刺激的な研究で人々を笑わせる(楽しませる)こと、そして、そのことによって人々に科学的な思考をさせることを目指しているようです。また、成果の正当性や経済や社会への貢献については必須の条件とはしていないことなど、良いものとそうでないもの。を区別し序列化し、表彰する。という一般的な賞制度とは、全く違う考えで運営されていることにもその意義の手がかりがありそうです(実際に全く無名の研究者が受賞することが多いようです)

科学(に限らず人類は、かな)は、誰もが疑問に思うことを放置せず探求したり、普通なら疑問すら持たない事を非常識な視点から掘り下げたり、常人には不可能なレベルで根気よく物事を観察、記録したりすることによって、大きく発展してきました。上に記した受賞例など、1~2行の説明のため、ただの思いつきの薄っぺらい研究に読めてしまいますが、各研究を掘り下げて説明した文書を読むと、それらが生まれた背景にある発想や情報収集・蓄積法と科学的な見地からの仮説や結論の導き方など、なるほどと思えるものもあります。(そうでないものもあります。理解力の問題なのか、研究自体がトンデモ科学なのか)

社会的な成果や貢献が、直には求められてはいないことも、遠い将来に大きな果実に繋がるかもしれない無名で泡沫の研究や発想を、拾い上げ、育てるための仕組みのようです。

賞という制度は、前述のように良いもの。とそうでないもの。を区別し序列化し、もっとも優れた者を決め、栄誉を与える。というものが普通ですが、違う考えで行われているこのイグ・ノーベル賞は、秩序でなく混乱を創り出し、次の創造を産むためのシステムであるかのようです。このあたり、卑近な領域を科学することによって、裾野を広げると同時に頂点を高めようとしているのでしょうか。

ノーベル賞も、イグ・ノーベル賞も科学(や人間の営み)の頂点に位置するものではありますが、科学系のノーベル賞など、受賞となった理由を説明して貰っても、高度すぎて結局よく解らないのに比べれば、《イグ》の方は市井の研究者や一般人の発想にも刺激をあたえてくれる部分があります。日本などでは毎年、イグ・ノーベル賞は、新聞等で報道されている訳ですが、それをみてクスッと笑うだけではなく、たまには、ガッツリと内容を読み込んでみると良い発見がありそうです。もちろん、自分で賞を獲りに行く!のも、結構、オススメかもしれません。

(記:古沢)


参考)
M.エイブラハムズ『イグ・ノーベル賞』(阪急コミュニケーションズ,2004)
M.エイブラハムズ『もっと!イグ・ノーベル賞』(ランダムハウス講談社,2005)
志村幸雄『笑う科学 イグ・ノーベル賞』(PHP研究所,2009/新書)
久我羅内『めざせ イグ・ノーベル賞 傾向と対策』(阪急コミュニケーションズ,2008)

・イグ・ノーベル賞運営者サイト(英語)
http://improbable.com/

・応募メール窓口
air@improbable.com

イグノーベル賞受賞者の一覧(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E8%B3%9E%E5%8F%97%E8%B3%9E%E8%80%85%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7

イグノーベル賞日本人受賞者の一覧(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E8%B3%9E%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E5%8F%97%E8%B3%9E%E8%80%85%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7


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(写真)《中銀カプセルタワービル・黒川紀章,1972》イグ・ノーベル賞級?の"考えさせる"建築ではと、コジツケて掲載。 個々の部屋が1ユニット(立方体)になっていて、高張力ボルト2本で基本構造物に固定され必要に応じ交換できる設計。(にもかかわらず実際には交換されたことはなく建て替えが決定・・・)

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