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2011年02月18日

今日はライフログについて書きます。

この話題ですと、少しは、データの蓄積や処理関連についても書くことになりますが、ここでの内容は弊社としての事実認識や見解ではなく、あくまで私(古沢)のものとなりますので、ご了承ください。って、まあワタシが書くことって、いつも通りたいしたモノになるワケはなくグタグタなので企業としての見解と誤認されることはなさそうですが。(今日のは特にそうかも・・・・)

で、今日のところは、ライフログという言葉は、実は人によっていろいろな意味で使われていますので、そこのところの整理が出来たらいいかなぁ。というところです。少しマジメに書くと、ライフログというものは古くからあるものなのに、なかなかフルに利活用する。という機運にならない理由はふたつあって、ひとつは、この言葉の定義の曖昧さであり、ふたつ目はプライバシーへの不安が解消されないからなのだそうで、そこのところを少し書いてみようかと思います。

1.ライフログとは?

ライフログは名前の通り、もともとは、個人の生活記録の蓄積にすぎないのですが、これらの情報を自動(半自動)で取得し蓄積する機器の発達や、集めた情報を活用してビジネス化しようとする事業者の存在と高速な無線ネットワークやデータ解析(マイニング等)などICT技術の進歩に、法制度やルール化も生活者の知識や意識も追いつかないことから、問題がややこしくなっているのです。

ここを、ややこしいと言ってしまうとネガティブですが、ポジティブな言い方をすると、日本は多機能携帯を中心とする電子デバイスが、すでに普及しフルに活用されているので、これらのデバイスで個人の情報を収集し分析し、生活者の利益に適う仕組みを作ることが、Googleなどとは違う領域での情報プラットフォームとして、日本の競争力を産む可能性がある。として注目されています。(日本の携帯はGPS、マイク、カメラ、電子決済用ICチップ、機種によっては、加速度や温度センサーなど、情報収集機能満載になっています)

2.ライフログの情報収集領域
ライフログで記録される対象は、利用者に関することすべてですから、乱暴に言うと、ネットで検索しても出てこない個人のすべての情報がそれに該当するのですが、よくある例を書いてみます。

A)個人の備忘録に内容が近いもの
・読んだ本や雑誌の記録
・所蔵するCDやDVDの記録
・食事や摂取したカロリーの記録
・運動やトレーニングの記録
・購入した物品の記録

B)個人の活動記録(行動履歴)がPCや携帯やその他の機器等で取得、蓄積されたもの
・WEBでの閲覧・検索記録
・ネットへの書き込み(ブログ、SNS、ツィッター等)
・ネット通販等での購買・決済歴
・位置情報(GPS・街頭カメラ等の取得)
・移動情報(パスモ・スイカ等の利用)

C)本来は個人に属する情報だが、内容の専門性や公証性等により管理が外部で行われることが多いもの
・医療記録(通院、投薬、医療用カルテ等)
・納税/年金/社会給付等
・居住/渡航歴
・各種免許/違反歴
・学歴/教育歴
・各種保険加入/保険金給付歴 等

A)の備忘録系というのは、デジタル化以前からあるもので。最近の"ライフログ・アプリ"というとこれらのデータをWEB上であずかるだけでなく、データの入力時にマスターデータと照合することで、入力を容易にしたり、必要に応じての検索や集計や分析・グラフ化などの処理を行えたりする仕組みが多く作られています。(アップルのiTunesも、これの仲間でしょうか。利用者の音楽のすべてを蓄積して管理できる仕組みになっています)

このライフログ・アプリを外部脳として積極的に活用することによって、大事なことを記憶しないといけない。というストレスから解放され、増進したいことが増進でき、やめたいこと(喫煙とか)がやめられ、自身の進歩が確認できるのだそうです。いちいち手間暇かけて記録するストレスが、ゼロとは言わないにせよ、大きく軽減されるのなら、確かにそういう効果が前面に出てくるのかもしれません。

B)の情報群は、ネットと各種のセンサー類、大容量の記憶媒体が普及することによって、データをほぼ自動で、収集・蓄積・活用することが可能になった領域ですが、これらの情報の多くの部分は、利用者がいつも持ち運んでいる、携帯・スマートフォンで収集可能で、それら収集情報を即時に活用して、その人の行動をリアルタイムに支援できるとして、注目されています。

(○○駅で降りたら、その駅周辺の情報を提示し、道案内されたり商業施設の案内/宣伝が出せたりします。"人の行動情報の把握はマネタイズの原資になる"という発想が出てくる訳です)

このB群については、利用者が明示的・自発的に情報を収集されることに合意している訳でない場合が多く、またそのデータの利用範囲なども、必ずしも明確でない場合があるため、問題視される場合があります。情報提供に合意した一人の情報が、複数の事業者によって、データを蓄積され、分析されることが珍しくない(個人識別されない情報であれば、個人情報保護法の保護対象ではありません)ことから、提供時は個人識別されていなくとも、その後の処理によって、実質的に個人を特定できる場合があるなどの問題もあります。これらの懸念点は、ネットの場合、ある事業者が独占的な地位を獲得していくことも多いことから、無視することはできません。

(ネット広告でいえば、旅行サイトAで、北海道の情報を調べた後、全く別のサイトBで別の情報を閲覧している利用者に対して、AとBの広告が同じ配信者で行われている場合、クッキー等の活用により、Bの閲覧者が北海道に興味があることが想定できるので、サイトBで、北海道行きの航空券の宣伝バナーが出されたりします/この場合、個人でなく利用ブラウザを個別に判定)

C群については、2013年に導入が検討されている「国民ID」制が実現して定着すれば、かなりの部分が解決できそうです。(このIDは民間企業の持つIDとの連携も検討されています)
医療カルテ・診療歴については、問題がいろいろとありそうですが、過去の検査結果や投薬歴がわからないために、余分な検査や治療が行われることも多いようなので、実現が急がれるところではないでしょうか。

これらA群~C群のデータは、その利活用が、それらの一般ユーザーとデータを保管(利用)する機関/企業の1対1の関係で行われる場合は、相互の信頼による合意(契約)によって行われれば良い訳で、よほどのセンシティブな情報でない限り、万が一、漏洩があっても影響は限定されることになるのですが、いま、ライフログの利活用という点で問題となるのは、これら一個人の情報が、個人の識別性は、一度は排除されるとはいえ、多くの機関(企業)の間で、情報が取得され加工され利用される。という形態が想定されていることにあります。漏洩した場合の影響度の大きさ(データの漏洩は一般的には修復不能です)や、一般の利用者にとっては認知しない場所で情報の突き合わせ等が行われる点で不審をいだかれる部分が残ります。

ただし、これらの懸念をもとに、いま、ここできびしい規制を行うと、あらたなサービス・産業の発展を阻害することになります。(日本の著作権法は、長い間、グーグルのようなデータを蓄積するタイプの検索エンジンを合法的に構築することを妨げていました。これを許す新著作権法は2010年1月にやっと施行)

また、ソモソモ論的な話になりますが、これらの"ライフログ(とくにB群)"について、その実態は、ネット上の履歴収集であったり、行動情報のデジタル化が中心で、かつ、その活用目的は、利用者への利便提供といいつつ、企業のマーケティングやビジネスの拡大に資する。という視点が強いことから、"ライフログ"という言葉をこの領域で使うことが適切なのかどうか。"行動支援・行動ターゲティング情報" とでも呼ぶべきもので、自発的かつパーソナルユースを含意する"ライフログ"という語はふさわしくないのではないのか。という意見があります。


3.プライバシーへの不安

国民のすべての行動が監視されるという反ユートピア的な世界は、1949年にジョージ・オーウェルが著したSF小説『1984年』で有名ですが、この小説で描かれたような情報統制が反テロリズムという大義名分のもと、911事件後のアメリカで計画されたことがあります。

米国防総省に国防高等研究計画庁(DARPA・Defense Advanced Research Projects Agency)という組織があり、2003年頃、ここが企画した全情報認知システムというものがそれです。(TIA/ Total Information Awareness)

これは、オンライン、オフラインを問わず、国家として入手可能なすべての情報を収集し解析することによって、テロに対抗する目的を持つもので、ネットでの行動履歴やクレジットカードの決済歴はもちろん、教育記録や医療記録、メール履歴などすべての個人情報を解析の対象とするとしていました。が、この計画は、さすがに、一般の市民からも多くの批判を受け中止されました。
(DARPAは革新的・非常識なもののみを研究プロジェクトの対象とする組織で、ステルス機やGPSの基礎技術、インターネットの前身のARPAnetなどがその成果として有名。DARPAは、自身では研究施設等を持たずプロジェクトマネージャーを公募し研究を企画。企画が成立した場合、それを実現するにもっともふさわしい学者や開発者、実務家を集め"スーパースター"集団で事にあたるという組織運営をしています)

このTIAは、極端な例で、プロジェクトの説明などあまりにもナイーブで無防備な表現であったため、中止に追い込まれてはいますが、計画が承認されれば、技術的には数年のうちに実現できる可能性が高かった訳で、小説『1984年』の世界が、この先、どこかの社会で出現する可能性は現実のものになってきました。

日本では,2007年から3年間、総務省で"利用者視点をふまえたICTサービスに関わる諸問題に関する研究会"というものが開かれ、ライフログだけでなく、CGM、SNSや青少年のネット利用など多くの問題が議論され、携帯を利用しての行動アシストサービスの実証実験なども行われました。(情報大航海プロジェクト・3年で100億円の国家プロジェクトだったようです)

ここの話を書くと、とりとめないので省略しますが、ライフログ(行動ターゲティング)関連でいえば、プライバシーへの不安を解消することが重要であり、匿名化、仮名化の手法やルール化(法制でなく自主規制を推奨)を求めると同時に、、利用者にたいしての (1)教育・啓発強化 (2)透明性の確保 (3)消費者主体の管理の余地(選択肢の付与)(4)データセキュリティの強化などを、課題として上げています。

4.まとめ(まとまらないですけど・・・)


情報の蓄積による行動支援やリコメンドは、ネットでの書籍購買のように嗜好性(志向性?)の強い領域では、とても有効に機能していることは、実感されるのですが、ライフログのように、対象が広範でかつ、それらの情報を集約すれば、個人の行動や意識の多くを多面的に捕捉してしまえるような情報の活用が本当に有効なのか。については、疑問を持つひともある比率で存在すると思います。が、限られた領域(観光地や商業地でのガイダンスや、何かのイベント、たとえば事故や疾病後の処理や対応であれば、対象者の広範な情報を元に、その特性に合わせたキメの細かい"空気の読める"行動支援情報が期待できそうなことは容易に理解されます。

ただ、情報を集約するのが政府であれ事業体であれ、いまだけでなく将来においても信頼でき、維持される組織というものは、いまのような社会では容易には実現できない訳で、本当のところ、これらの構想は、表面的な行動ターゲティングや支援サービス以外の所では、実現不能なのではと、個人的には思うところです。ライフログを利活用することによって、大きな果実を得られることへ向けての大きな障害は技術的な面ではなく、個人や社会の信頼にあるのではないでしょうか。

これへの解決策は、信頼関係をベースに活動できる組織の範囲内でやれ。という話にすると本当のところの解決にはなりませんが、グーグルのストリートビューは、日本ではいろいろな論議を呼んではいるものの、あの訴訟社会のアメリカで、訴訟は1件のみしか起きておらず、その理由は、グーグルと一般市民との相互の信頼関係にある。とされていることに解決のヒントがありそうです。(グーグルへの訴訟1件って本当かなぁ。って感じですが、参考文献(2)に記載がありました。この問題は国情の違いも大きいと思います)

ただまあ、個人的な感想レベルで言うと性善説で解決できる問題かというとそうでもなさそうなので、ライフログ版スイス銀行とかのような組織を作ってしまうのが良いのかもしれません。強力なセキュリティ"だけ"を売りものにするとか、商売になりそうです。(スイス銀行が正義かというとそうでもないようですが、依頼者の利益は守ろうとするはず)

もうひとつ、実は、ここまでつらつら書いてきた個人に関わる話としてのライフログでなく、B2Bでの「ビジネス・ライフログ」であれば、プライバシーの問題はほとんどなく、従業員や経営者に求められるゴールは常に明確に示されているはずですし、従業員のトレーニングやコンプライアンス的な観点からのニーズも存在しそうなので、まずこちらを掘り下げると、大きな成果が先に確認できそうな気がします。このあたり、どなたか、やってみませんか?

(記:古沢)


(参考)
(1)寺田眞治『ライフログビジネス』インプレスR&D,2009
(2)日経コミュニケーション『ライフログ活用のすすめ』日経BP,2010
(3)Gordon Bell他、『ライフログのすすめ―人生の「すべて」をデジタルに記憶する』早川書店/新書,2010
(4)美崎 薫『ライフログ入門』東洋経済新報社、2010
(5)総務省:"利用者視点をふまえたICTサービスに関わる諸問題に関する研究会"
http://www.soumu.go.jp/menu_sosiki/kenkyu/11454.html
(6)情報大航海プロジェクト
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/daikoukai/igvp/index/index.html



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(写真は、バーコードスキャナー)
ライフログ収集的な消費データ提供サービス。(株)インテージが実施している調査モニター(Personal Eye)。

http://www.intage.co.jp/service/marketing/customer/personal_eye

調査協力者(関東・近畿で5000名)は、何かを購入するたびに写真のバーコードスキャナーで情報を収集。自宅に置く充電器に装着されている通信カードで、購入情報が、インテージへ毎晩送られる仕組み。購入データは購入者の属性と紐づけられ、短期的な購買動向はもちろん、長期にわたっての購買の変容などが分析され、クライアント企業に提供されているようです。ちなみに調査協力者には、自身が何をどれだけ買っているかの情報は一切提供されない模様。これをくれれば家計簿代わりになって便利なのにね。まあ、数字を見せられると以降の購買に影響するからでしょうか。