BLOG BLOG マディスン・アベニューの履歴書~時代を作った男と女~

2010年08月20日

ニューヨークのマディスン・アベニューは、20世紀初頭から多くの広告代理店が拠を構え発展していた場所。転じて、今でも、マディスン・アベニューというと、アメリカの広告業界のことを意味します。

東新橋のカレッタ汐留というビルの地下にアド・ミュージアム東京という広告とマーケティングを専門とする日本唯一のミュージアムがあり、ここで、10月3日まで、アメリカの文化を作ってきた広告とそれを実現したクリエイターたちの姿を描いた展示が行われています。

この展示、1時間もあれば、全部見られる(飽きる)だろうと思って、閉館の1時間ちょっと前に入ったのですが、なかなかどうして、丁寧に見ると奥が深く、あと1時間ないとダメだった。というのが正直なところです。ということで、時系列にまとめられた展示の前半部分しか丁寧には見られなかったのですが、その中から印象にのこったものをいくつかご紹介してみます。

1.日本でも比較的広く知られているもの

有名なマルボロ(マルボロマン)やフォルクスワーゲンの一連の広告やチョコレートのM&M、エイビスレンタカーの広告などが眼につきます。ハードセルで"売り"を立てようとするもの、ソフトセルで、今で言う"ブランディング"を立てようとするものなど、スタンスの違いはあれど、長い年月を語り継がれたものだけに、見応えがあります。誰もが楽しめる部分です。

2.知らなかった時代を感じるもの

強烈なのは、1964年の大統領選でLyndon Johnsonへの支持を訴えるTVCM。Daisy(ひなぎく)という名のCFで、小さな女の子がたどたどしくカウントダウンしながら、ひなぎくの花弁を落としていく画像に、核兵器のカウントダウンをする男性の声が重なり、大規模な核爆発の映像に切り替わります。投票日にJohnsonへ投票せず、家にいることは非常に大きなリスクだ。というメッセージで〆られるフィルムです。(Johnsonは大差で勝利。このCFはYou Tubeで検索すると見られます)

3.時代を変えた・人の生活を変えたもの

1950年代中盤、髪を染めることが、一般の女性にとってタブーであった時代に、ヘアカラーの市場を創り出したキャンペーン。良識ある母親と思われる女性の写真と"Does She or Doesn't She? 彼女は(染髪)しているの? してないの?"というメッセージを組合せ、世の一般女性たちの心をとらえたようです。このキャンペーン(クレイロール社)は、他の人から染めているとは気づかれない(他者からどう思われるか)という視点のものですが、この20年後、ライバルのロレアル社は、当時もっとも高価なヘアカラーであった自社製品を "Because I'm worth it.(自分は価値があるから)"という女性自身の強いメッセージでヒットさせ、市場のリーダーとなります。というような後段の話は、『ティッピングポイント』の著者のマルコム・グラッドウェルが最近日本語版をだした『ケチャップの謎』という本に出てきます。とても面白いエッセイ集ですが、日本語版は『What the Dog Saw』という1冊の原書(ペーパーバックであれば、アマゾンで1000円以下・ハードカバーでも2600円ほど)を3分冊にして1470円*3=4410円で売る。という壮大なマーケティングをしており英語にあまり不自由しない人であれば、ここは、英語版を買った方が良さそうです。その昔、洋書というのは、とても高価なものでしたが、本当に世の中は変わりました。

どんどん違う方向に話が流れていますので、もとに戻します。新しいキャンペーンはほとんど見られなかったのですが、ペプシがマイケルジャクソンを使ったNew Generation CampaignのCFもまた素晴らしいものでした。街でマイケルジャクソンのパフォーマンスのマネをして楽しむ少年達の中に、ほんものの彼が現れ、驚きの中、一緒に歌い、踊る。というものですが、全くファンでもなんでもない私ですら、あの頃の彼は凄かった。と思わせるものでした。

さて、いつもながら、まとまりのない話でごめんなさい。最初に書いた方が良かったような気がしますが、この展示会、無料です。展示会のチラシに「いい広告は、見た人の人生を変える。作った人の人生も変える」というキャッチがはいっています。最近、人生変わってないよなー。と思いつつ、もう一回見に来ようと思った展示会でした。

                                                              (記:古沢)

*展示会の原題は、The Real Men and Women of Madison Avenue and their Impact on American Culture. マディソンアベニューにある"ニューヨーク公共図書館"で開催されたあと米国を巡回。他国では初開催。"ニューヨーク公共図書館"はゼロックスのコピー機、ポラロイドカメラ、リーダースダイジェストなどアメリカを代表するビジネスがこの場所から産まれたことでも知られる世界屈指の図書館です。

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(写真上)ミュージアム入り口は地下広場に面しています。
(写真下)展示会の解説書(無料でした)とカレッタ汐留の飲食店などで行われている展示会連動のキャンペーンのパンフ。館内外の演出など、さすがはココは電通文化圏。と思わせるものでした。