BLOG BLOG AR(Augmented Reality)拡張現実とは何か?

2010年12月10日

こんにちは、マーケの高木です。

先日12月1日、2022年のFIFA World Cup招致最終プレゼンの結果、惜しくも日本での2度目の開催とはなりませんでしたね。残念です。

日本のプレゼンの中で面白かったのが、日本で開催しているゲームを、世界各国のスタジアムのフィールド上に3D映像で再現して、世界中で同時に観戦できるようにするというもの。フィールド全体を画面にしてしまうというスケールの大きさと、3D用メガネをかけなくても立体的に見えるというのを聞きわくわくしました。

そして、もうひとつ面白かったのが、専用のディスプレイ(携帯サイズ)をプレイヤーにかざすと選手の情報がモニタに表示されるというもの。私は家でW杯を観戦するときは、サッカー関連の雑誌を買っておき、気になるプレイヤ―がいたら試合中に雑誌をめくっていました。このディスプレイがあればどんなに楽に楽しめるかと、本気で欲しくなりました。

詳細は<招致ブック>へ http://www.dream-2022.jp/jp/our_bid/bid_book/04.html

ところでこのディスプレイのことですが、日本の招致委員会のHP上にある招致ブックを見ていると、スタジアム観戦AR(Augmented reality)サポート機能と書かれているのが、それです。この文書を読んでいて、ほとんど何の説明もなくARと書いているが、いつからそんなにARという言葉は一般的になったのだろうか?と思ってしまいました。スマートフォンを使用している人であればご存じの方も多いかもしれませんが、それでも機能は知っているがARという言葉は知らないという方も多いのではないでしょうか。

そこで、本日は、ARとは一体何で、それにより何ができるのかをまとめてみました。

■まずはARのイメージをつかむ

ARとは何かを説明するにあたり、よく例に出されるアプリケーションとして「セカイカメラ」というものがあります。セカイカメラとは、頓知ドット(とんちどっと)株式会社が開発した、iPhoneやAndroid携帯用のアプリケーションの一種です。このアプリケーションを使用すると、携帯端末のカメラを通して街中を見ると、エアタグと呼ばれるタグが街中に浮いているように見えるようになります。このエアタグとは利用者が投稿した情報や写真で、「あのお店は美味しかった」などの情報が、まるで街中にPost-itを張り付けたように見えるようになります。

あくまでも一例にすぎませんが、セカイカメラを例にして説明しますと、現実世界に仮想世界の情報を重ねることで、実際に目に見えている情報以上の情報を得られるような技術が、ARと呼ばれている、と説明することができます。

セカイカメラ サポートセンターはこちら http://support.sekaicamera.com/ja/

■ARという言葉から意味を探る

先の例ではあまりにも曖昧な定義でしたので、より細かく言葉の定義を見てみましょう。

ARとは、Augmented realityの頭文字をとったもので、「拡張現実」や「拡張された現実」などと訳されます。よく引き合いに出されるのが、VR=Virtual reality「仮想現実」です。VRは完全にコンピューターの世界と人との関係になるのに対して、ARは現実世界と人との間にコンピューターを介することで、現実世界を拡張してとらえる/現実世界へ拡張して係わるという意味合いがあります。「拡張」という言葉では私自身は理解しにくいため、現実の認識を「補足する」というような意味合いで受け取っています。

ここまでは、視覚の話に限定してきましたが、ARは特に視覚に限定されたものではありません。何らかの情報デバイスを使用することで、五感の感度を高めたり、理解力を高める/補う技術全般=ARとしてとらえられます。聴覚を例にとると、冒頭のW杯招致ブックの中に、リアルタイムで音声を自動翻訳してくれる機器で世界中の人とコミュニケーションをとれるようにします、という一例がありますが、これも一種のARとしてとらえることもできるのではないかと思います。

(厳密な定義は難しく、AR関係の書籍を読んでいても、ARという概念はこれからも進化する・・・、という説明が多いので、個人的なとらえ方を書かせていただきました。詳しくは、参考図書などをご覧ください。)

■ARのメカニズム

現在のAR技術はどのようなメカニズムで成り立っているのでしょうか。ここでは書籍でも紹介が多くなされている、視覚に関するARの代表的な3つの技術をご紹介しましょう。

 1)マーカー式

これは、簡単に言うと、QRコードのようなマーカーと呼ばれるものを、カメラで写すとそこに仮想の3D画像を表示するというものです。例えば、マーカーが印字された紙を腕に巻いて、カメラで写すと腕時計をはめているように見えるというような技術です。

 2)マーカーレス式

読んだ字のごとく、マーカー式がマーカーを読み込むのに対して、マーカーがなくても、撮影した画像の特徴的な点を把握して、その画面に適した仮想の3D画像を表示するものです。例えば、手のひらを写したときに、その上に丁度うまく乗るように立体のキャラクターが見えるというような技術です。

 3)センサー式

最後のセンサー式は、セカイカメラにも使用されている技術で、緯度経度を測定するGPSや方角を測定する地磁気センサー、角度を測定するジャイロスコープといったセンサーにより、カメラで写している場所・向き・角度を測定して、その場所にふさわしい情報を表示するというものです。


■ARの実用例

こうしたAR技術が実際に利用されるのは、どういったシーンなのでしょうか。それは、すでに広告業界では注目されており、実際に利用されているケースもあります。例えば、洋服や時計のように実際につけてみないと分からない場合や、家具のように実際に部屋に置いてみないと分からないという場合に、自分をカメラで写すと服や時計などの装飾品をつけたイメージを確認できるサービスや、部屋の画像を映すことで家具が収まるか確認できるサービスなどがすでに利用されています。また、センサー式の利用例としては、街中をカメラで写すと店舗情報を得られるものや、クーポンが手に入るサービスなどが利用されています。

ここまで、言葉で説明してきましたので、より具体的な例として、私の携帯で使用しているARアプリを2つご紹介します。

 ①トラベルカメラ(メーカー;フューチャースコープ、無料)

カメラモードで風景を写すと、事前に設定した目的地の方角にピンが立つというものです。

trabel.png

写真は、都庁と新宿御苑と新宿駅を目的地に設定し、新宿中央公園付近で撮影したものです。青色のピンが現在地で、赤色のピンが目的地です。若干都庁の位置がずれており、GPSの精度が高いとは言えませんが、だいたいの目的地の方向を実際に見ている風景に表示できるため、旅行中に目的地の方角を確認するといった使い方が考えられます。

 ②Google Goggles(メーカー;Google、無料)

カメラでランドマークや商品のロゴを撮影すると、画像を解析してそのランドマークや商品のサイトが表示されるというものです。ペットボトルのロゴや書籍などの解析技術は高いのですが、ランドマークの認識は難しいようで、写真は弊社の入っているオペラシティービルを撮影してみた結果ですが、全く関係のないラックマウントサーバーが出てきました。 (写真;①解析中 ②解析結果 ③リンク先を表示)

opera.png

まだまだ、画像解析の技術はこれからかもしれませんが、撮影後に青いレーダーで写真の特徴点を解析している様子は、如何にも近未来的といった感じで面白いです。

■今後のARの課題・不安

特にここ2年ほどで、スマートフォンなどの高精度のセンサーを搭載したデバイスが普及したおかげで、お遊び内容のアプリから、本格的にサービスとして期待のできそうなアプリまでいろいろ登場しましたが、まだまだ技術的な課題は多くあります。

まずは、GPSセンサー精度や画像解析精度、言語解析精度などは、まだまだ発展途上ですので、今後の発展が期待されます。例えば、GPSセンサーなどは衛星がとらえにくいビルの谷間などでは、100m以上のずれが生じますし、鉄筋構造の屋内では方角を測定する地磁気センサーが20度以上ずれるなどの問題もあります。そういった問題を解消するための、高精度の衛星の開発や、屋内で位置を測定する新しいセンサーの開発などが進められています。

その他の課題としては、セカイカメラのようにユーザーが自由に情報を登録できるケースでは、情報過多になるケースが想定されます。実際、セカイカメラには、自分が見たい情報だけ見ることができるようにフィルターをかける機能が付いています。

また、技術的な問題以外にも、個人情報の漏えいの問題もあります。例えば、特定の個人の家に誹謗中傷のタグをつけることもできれば、有名人の家にタグがつけられたりするケースも考えられます。また、GPS情報がついていることを知らずに、自分の行動をツィッターで垂れ流してしまう、なんてケースも考えられます。インターネット上でも問題になる話ですが、実際の場所と情報が紐付いてしまうため、新しい注意が必要です。恋人に、「渋谷で会社飲みナウ」とつぶやいたら、GPS機能つきで歌舞伎町で飲んでいることがばれてしまったり、なんてことも考えられますので、本当に要注意です。

そして、何より個人的に問題だと思う点が2つあります。

まずは、カメラ式のタイプは、街中を歩きながら撮影するという行為はあまり歓迎される行為ではないため、使いにくいという点です。特に人通りの多い街中で、次に飲みに行く店舗を探すなんて場合にはあまり使えないように思います。もうひとつの問題は、だいたいのAR機能が電池の消費が激しく、バッテリーがすぐに切れてしまうという点です。これだけは、センサーの技術や解析処理技術、フィルタリング技術が向上しても付いて回る永遠の課題かもしれません。結構深刻な課題です。

■最後に、ランドスケイプ的ARアプリとは・・・

最後に、情報を扱う会社として、ランドスケイプ的ARアプリケーションについて、簡単に書いて終わりとしたいと思います。

まだ、実用化はしていませんが、弊社で保有している企業情報などを地図上に落とし込むことで、外回りの営業マンの営業活動をサポートするようなアプリなどが考えられます。なお、ARとは全く関係はありませんが、最近iPhone用の無料アプリをリリース致しました。機能は、電話番号を打ち込むと、その企業のHPが検索できるというものです。弊社で保有している、企業ドメイン情報約40万件の情報を利用したもので、現在は電話番号で検索できるというサービスですが、ゆくゆくはGPS情報と連動させたARアプリをリリースできれば良いですね。

電話.jpg

http://itunes.apple.com/jp/app/id405891634?mt=8

参考;
『ARのすべて-ケータイとネットを変える拡張現実』 日経コミュニケーション編集部 2009
『AR-拡張現実』 小林 啓倫 マイコミ新書 2010
『AR〈拡張現実〉入門』 丸子 かおり アスキー新書 2010

記;高木